
御岳山の宿の女将は、とても話好きな方だった。食事のたびに、御岳山のあれこれを熱心に語ってくれる。山の水がいかに美味しいか、部屋から東京湾や川崎まで見渡せること、自慢の柴犬がどれほど可愛いか、といったことを。
私は拙い日本語で、女将の話を理解しようと努めた。そしてコミュニケーションと言語は別物なのだと実感した。彼女は少ない英単語と、たくさんの日本語と、身振り手振りで、なんと私に七、八割も伝えてくれたのだから。
この御岳山に一泊することになったのは、偶然にもオリオン座流星群のことを知ったからだった。最近、夜空に関わる面白い縁が多くて、流星雨を見られる場所を探していた。最高の観測日は10月21日だったが、天気予報は曇り。以前、御岳渓谷にボルダリングの下見に来たことを思い出し、光害の少ない御岳山は星空観測に適していると思いついた。だから、ベストな日からは少し離れているけれど、この日に御岳山を訪れることにしたのだ。
もちろん、流星雨は見られなかった(笑)。
一番惜しかったのは、三脚を調整して三日月を撮影していたときのこと。突然、視界の端に明るい光の筋が夜空を横切るのが見えた。驚いたものの、よく考えるとそれが流星だったかどうかもわからない。今までも流星を見る機会があるたび、いつもこんな風に不意に目に入る程度で、今回もやはり幸運な日ではなかったようだ。

それでも、満天の星空はそこにあった。窓際にソファを移動させて、オリオン座を見上げながら横になった。眠気が訪れ、うとうとしながら何度か目を覚まし、ゆっくりとベッドに戻って眠りについた。

翌朝の食事のとき、女将が一枚の額装された絵を見せてくれた。水墨画風の六匹の狼が描かれている。また日本語で詳しく説明してくれたが、私は「任天堂」という言葉だけ聞き取れた。隣の部屋の客への説明を聞きながら、私も調べてみた。
狼は「Ōkami」と呼ばれるのだということ。
それはカプコンの『大神』というゲームの日本語タイトルではないか1。やがて、いくつかのキーワードが聞き取れてきた。鹿や猪が農家の作物を食べてしまう害獣だが、狼はその害獣を食べてくれる。だからこの地域では狼が神として祀られているのだという。御嶽神社に祀られている「大口真神」は、狼が神格化された存在なのだ。
だから御岳山には、ペットの犬(どちらも犬科)の健康を祈る人々がたくさん訪れるのだと納得した。

その後、宿にある狼に関する作品をいくつか眺めた。本当に『大神』の世界観があった。

こういう偶然って、本当に面白い。
これらの記憶は、もともとは自分の頭の中にばらばらに置かれていただけだった。でも、特に新鮮で印象的なことは、夜空の特別明るい星のようなもの。だからその星に名前をつける。そして興味深い記憶が積み重なっていくと、ときにはそれらの記憶が思いがけず繋がり、繋がった星々は星座になる。
ただ、誰もがそれぞれ自分だけのオリオン座を持っている。流星がなくても、それはとても素敵なことだ。
Footnotes
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後で調べてみたところ、『大神』は御岳山の神話を参考にしたのではなく、狼に関する幅広い神話を参考にしているようだが、こうして自分が面白いと思った記憶同士を繋げるのは、やはり楽しい。あの六枚の絵は、任天堂『ゼルダの伝説』の公式漫画を手がける姫川明(姫川明輝)の作品だった。 ↩